アイスハート

一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『階段途中のビッグ・ノイズ』越谷オサム/爆ぜろ音楽!弾けろ青春!

f:id:maegamix:20150504134434j:plain

越谷オサムの『陽だまりの彼女』を読んで、年甲斐もなくボロボロと涙を流してしまいました。

その暖かくて優しい文章が脳裏に焼きつき、1冊で大ファンになってしまい、買ってしまった人生2冊目の越谷オサムです。

かつてバンドを組んだことのある大人にも、バンドの組んだことのない大人にも、現役の高校生たちにも、もれなくオススメできる一冊でした。

軽音楽部の廃部を取り消せ!優柔不断が玉にキズの神山啓人は、猪突猛進型幽霊部員の九十九伸太郎に引きずられて行動を開始する。目指すは文化祭での一発ドカン!!のはずが…。周囲の冷たい視線、不協和音ばかりの仲間達、頼りにならない顧問。そこに太ももが眩しい同級生への恋心も加わって―。啓人達は見事にロックンロールできるのか。

バカな先輩のせいで廃部寸前の軽音楽部

実質部員3名の軽音楽部。上級生2人の部員が校外で事件を起こし、先輩2人は退学。軽音楽部は廃部決定。

ひとり残された、内気な神山啓人は決定されてしまった学校の方針を受け入れる以外に手段が無かった。

文化祭「田校マニア」で大活躍した兄、剛の背中を追いかけて、高校に入ったらバンドをやって「田校マニア」に出演したい、そんな夢は儚くも崩れ去った。

廃部となったホコリまみれの”部階”を片付ける啓人は、洟と涙が止まらない。

廃部間近で幽霊部員が返り咲き

廃部決定を聞きつけて、幽霊部員がひとりの幽霊部員、九十九伸太郎が”部階”を訪れる。

熱狂的なKISSのベーシスト、ジーン・シモンズに酔狂する彼もまた、啓人と同じ夢を追って県立大宮本田高校に入学し軽音楽部のドアを叩いたひとりだった。しかし、音楽活動を一切していない軽音楽部に早々に見切りをつけ、幽霊部員になったのだった。

晴れて邪魔者(上級生2人)はいなくなった。しかし、軽音楽部が廃部になるのは許せない。

「校長に直談判する」そう息巻き、突然帰ってきた幽霊部員は走り出す。

そして取り付けた軽音楽部存続の条件は以下の3つ。

1.練習場所・既得の備品はこれまでどおり提供するが、予算ほかにおいて学校は軽音楽部をいっさい支援しない
2. 練習場所での活動時間中は、常に顧問の監督を受ける
3. 半年以内に何らかの成果を挙げられない場合は、予定通り廃部
(21ページ)

頼りない顧問をゲット

大事件を起こしたのは退学になった先輩2人なのに、誰も軽音楽部を良しとしない学校内での空気。

当然、軽音楽部の顧問を進んで受ける教師は居なかった。ただ、一人を除いて。

かつて30人は下らない、強豪部だった軽音楽部は「田校マニア」に出演する部内におけるバンドの競争も激しいものだった。

『あ、若さを武器に勝負できるのはせいぜい十代のうちだから、少々不躾でもやりたいことをやるといいよ』(28ページ)

そんな激しい競争の中で、啓人の兄、剛のバンドが「田校マニア」に出演する足がかりを作った、担当は国語なのに何故かチョークの粉まみれの白衣を羽織る、「ナメクジを飼っている」と生徒たちの間で噂のカトセンこと、加藤先生。

カトセンは、絶対に引き受けないと思った軽音楽部の顧問を「うん」の二つ返事で快諾する。

啓人はギター、慎太郎はベース。顧問も着いた。残るは、ドラムのできる部員のみ。

難航する、あとひとりの部員集め

ところが、あとひとりの部員が見つからない。

頼みの綱だった先輩は、受験を理由にお断り。かわりに、かつてバンドメンバーだった一人の2年生が紹介される。

楽器ならなんでも卒なくこなす、この上ない逸材、嶋本勇作。ドラムのパートを依頼するが、ギターがいいの一点張り。

勇作を部員に加えつつも、ドラムのできる部員探しは振り出しに戻る。

八方塞がりな現状に、伸太郎は苛立ちを隠せず、宿敵の体育教師・森淑美の抜き打ち持ち物検査における振る舞いと、エレキベースの取り扱いににブチ切れる。

そして、とある生徒に伸太郎の怒りの矛先が向けられる。

独裁者的な顧問が務める吹奏楽部にアゲインスト

結果が全てで、努力や過程や思い出なんかは一切無視。

求める演奏ができない生徒は、平気で汚い言葉で罵り散らす、吹奏楽部の顧問・林原に、岡崎徹は突発的に吹奏楽部をやめてしまう。

中学生時代から吹奏楽部に所属し、中学時代以上の感動を求めて入学した吹奏楽部の強豪校・県立大宮本田高校。

目標を、音楽を失った上に、失恋までしてしまった徹はふらふらと吹奏楽部とは異なる音楽の鳴り響く方向へ惹かれてゆく。

【総合的な感想】加速し始める軽音楽部と咲き始める恋

頼りない新部長の啓人には、共感を。
これ見よがしに爆走する伸太郎には、爆笑を。
何かと余裕の勇作には、安心を。
マイペースで一途な徹には、恋のエールを。
そしてカトセンには、何かいいものを。

男子高校生たちが音楽に賭けた青春が、こんなにも面白いとは思いませんでした。

軽音楽部をテーマにした作品としては、かきふらい氏の漫画、並びにアニメの『けいおん!』などが思い浮かびますが、本作品は同じ軽音楽部でも全く異なります。

男子高校生だらけの物語なのに、むさ苦しさは感じさせない、駆け抜ける青春一直線、最高です!後半はひたすら鳥肌が止まず、読みながら頭の中で鳴り響くのは「アンコール!」でした。

高校2年生が学園祭で一発ドカン!な物語なので、ぜひともその後(高校3年生)の軽音楽部を描く続編(アンコール)を期待したい作品です。

越谷オサムが更に好きになりました。

© 2014-2020 アイスハート by 夜