恥ずかしながら、名前は知っていても、彼の作品を読んだことがこれまでありませんでした。
私が若かった頃は、ホラーやミステリーといったジャンルに趣味が偏っていたからだと思います。
ひょんな事から無性に三島由紀夫、という小説家が気になり、Wikipediaなどで調べていたら、余計に気になり、古本屋さんで買ったのが本書『不道徳教育講座』。
小説家としてではなく、人間 三島由紀夫のエッセイ集です。
私が買ったのは中古だったため、今より装丁が古く、無難ですが、現行版の装丁デザインは強烈ですね。
「大いにウソをつくべし」「弱いものをいじめるべし」「痴漢を歓迎すべし」等々世の良識家たちの度肝を抜く命題を並べたてた”不道徳のススメ”。大西鶴の『本朝二十不孝』にならい、著者一流のウィットと逆説的レトリックで展開される論の底に、人間の真実を見つめる眼が光る。エスプリ溢れる人間学的エッセイ集。
仰天する命題だらけ
本書のタイトルから既にそうなのですが、全69章の大半が、既存のいかにも道徳的な行動指針を真っ向から否定するタイトルとなっています。
全部で69もあるので、目次の一覧は後半で一覧にまとめましたので、どんなタイトルが収録されているか、一度ご覧ください。
タイトルを見ている限りでは、男尊女卑というか、女性に怒られそうなものばかりですが、本書のエッセイは『週刊明星』(1991年終刊)という女性向けの大衆週刊誌に掲載されていたもの、というから驚きです。
非常に堅実な内容
目次には騒然たるタイトルが並びますが、内容は至って堅実です。ビジネス書などの様に本のタイトルで釣られたものの、内容が薄い、ということはありません。
しかも、わずか340ページ弱に69ものタイトルがギッシリと詰め込まれているので、1つのタイトルに割かれたページ数は約5ページといったところで、星新一のショートショート並に短いにも関わらず、内容が濃く、コンパクトにまとまっています。
このコンパクトさが、何かと忙しい現代人にピッタリで、たとえば私は片道約10分の通勤電車の中で3タイトル、もしくは気に入ったタイトルを繰り返し読むなど、空き間の時間を活かして読み進めていました。
長編のエッセイほど構えず、詩集ほどアッサリしない。短い時間で、文豪の濃いエッセイに触れる事がでる作品です。
読了しても、常にカバンの中に入れておきたい1冊です。
目次一覧
目次は以下の通り。
- 知らない男とでも酒場へ行くべし
- 教師を内心バカにすべし
- 大いにウソをつくべし
- 人に迷惑をかけて死ぬべし
- 泥棒の効用について
- 処女は道徳的か?
- 処女・非処女を問題にすべからず
- 童貞は一刻も早く捨てよ
- 女からカネを搾取すべし
- うんとお節介を焼くべし
- 醜聞(スキャンダル)を利用すべし
- 友人を裏切るべし
- 弱いものをいじめるべし
- できるだけ己惚れよ
- 流行に従うべし
- お見合いでタカるべし
- 約束を守るなかれ
- 「殺っちゃえ」と叫ぶべし
- 文弱柔弱を旨とすべし
- スープは音を立てて吸うべし
- 罪は人になすりつけるべし
- 美人の妹を利用すべし
- 女には暴力を用いるべし
- 先生を教室でユスるべし
- 痴漢を歓迎すべし
- 人の恩を忘れるべし
- 人の不幸を喜ぶべし
- 沢山の悪徳を持て
- 喧嘩の自慢をすべし
- 空のお世辞を並べるべし
- 毒のたのしみ
- いわゆる「よろめき」について
- 0の恐怖
- 道徳のない国
- 死後に悪口を言うべし
- 映画界への憧れ
- ケチをモットーにすべし
- キャッチフレーズ娘
- 批判と悪口について
- 馬鹿は死ななきゃ……
- 告白することなかれ
- 公約を履行するなかれ
- 日本及び日本人をほめるべし
- 人の失敗を笑うべし
- フー・ノウズ
- 小説家を尊敬するなかれ
- オー・イエス
- 桃色の定義
- 性的ノイローゼ
- サーヴィス精神
- 自由と恐怖
- 人に尻尾をつかませるべし
- 刃物三昧について
- お化けの季節
- 肉体のはかなさ
- 人を待たせるべし
- 人のふり見てわがふり直すな
- 催眠術ばやり
- 言葉の毒について
- 子持ちを隠すべし
- 何かにつけてゴテるべし
- モテたとは何ぞ
- プラスティックの歯
- 痴呆症と赤シャツ
- ニセモノ時代
- 「らしい」と「くさい」
- 若さ或いは青春
- 恋人を交換すべし
- おわり悪ければすべて悪し