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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『玩具修理者』小林泰三/生と死の狭間の世界

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2つの作品が収録された本書。少々不気味なカバーですが、内容は霊的なホラーではありませんので、表題作の『玩具修理者』と、もう一つの作品『酔歩する男』も、凄惨な表現に多少の耐性があれば問題なく読めます。

本作品は、『私が青春を共にした、おすすめの小説ランキングベスト50』のコメント欄でおすすめされた作品が収録されている本、ということで手に取った小説です。

読了して納得したのは、乙一のホラー作品(所謂、黒乙一)が好きな人はきっと好きになるだろう、という事です。

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く…。現実なのか妄想なのか、生きているのか死んでいるのか―その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

『玩具修理者』

彼女がいつもサングラスをしているには訳があった。それは過去に身に起きた事故のせいと彼女はいい、くらいところではサングラスが必要ないという。

「何故明るい時にサングラスが必要なのか」、という問いに答えるために、欠かせない人物。

彼女が幼い日に出会った、物体だろうが生物だろうが、たちまち直して(治して)しまう、子どもたちだけが知る「玩具修理者」という異様な存在。そして、その修理方法とは・・・。

最近、何を以ってホラーと言うのか、何を以ってミステリと言うのか、私の中での定義が少々曖昧になってきています。

本書は角川ホラー文庫から刊行されている本ですので、ホラーには間違いありませんが、和製ホラーとして有名な『リング』や『呪怨』といった、霊的現象とは全く関係が無いテーマです。ただ、抽象的な表現で恐縮ですが、背筋が凍るようなお話し、という意味では間違いなくホラーです。

恐怖で夜眠れなくなったり、年甲斐もなく暗い場所が怖くなるとか、そういった作品ではありませんので、念の為。ただし要所々々で、かなり凄惨な文章表現があります。

正統派ホラー、というのが第一印象です。

『酔歩する男』

大雨のある日、会社の同期との飲み会がお開きになった。

血沼(ちぬ)は、一人だけ帰る方向がみんなと異なるため、パブで次のタクシーが来るまで一人で待っていると、年配の会社勤めとは思えない、尋常ではない雰囲気の男からの視線を感じる。

視線を合わせないよう、タクシーを待ち続けていたところ、男が突然話しかけてくる。

「あのう……。つかぬことを伺いますが、もしや、わたしを覚えておいでじゃありませんか?」(47ページ)

まったく心当たりが無かったため、軽くあしらうが、男は血沼の事をよく知っている、あろうことか学生時代の親友であったと言う。歳も大きく離れているにも関わらず、親友であったと名乗る男・小竹田(しのだ)。

からかわれているのかと思い、一般的な身体的データと親友でなければ分からない質問を投げかけると、小竹田は卒なく全てを言い当てる。

タクシーが来た。新手の詐欺師と割り切り、タクシーに乗り込むものの、どうしようもなく小竹田の話が気になり、血沼はついにタクシーをやり過ごし、小竹田の長い話しの続きを聞く事にする。

そして語られる、小竹田と血沼の関係と菟原手児奈(うない・てこな)という一人の女性。

本作品は、三半規管のぶっ壊れ、とブログのコメントから紹介された作品です。

テーマも正に、人間の中枢機関である頭脳に存在する三半規管を、物理的に破壊するお話しなので、読み手の三半規管にも異常をきたす作品です。(もちろん、後半は比喩です。)

こちらはホラーと言うよりはSF的な作品とも言えます。『私が青春を共にした、おすすめの小説ランキングベスト50』にコメントを寄せていただいた、紹介者のミントさんの受け売りですが、SFホラーという表現も正しいかもしれません。

表題作の『玩具修理者』に対して4倍の物理的ボリュームがあり、中短編ながらも中々の読み応えでした。

手児奈を巡る二人の男の狂気的な愛と、手児奈のための研究が主軸となっており、一見破茶滅茶な理論が議論で展開されるのですが、そんなわけないと思いつつも、或いはそうなのかもしれない、と物語にぐいぐいと引き込まれていきます。

久しく読んでいなかったジャンルの小説で、確かに乙一好きならきっと好きになれる作品です。

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