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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『死神の浮力』伊坂幸太郎/死神・千葉が長編で帰ってきた!

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伊坂幸太郎の作品は、他作品の登場人物が再び他作品でも登場する、ということは珍しい事ではありません。

本作品『死神の浮力』は、ベストセラーとなった短編集『死神の精度』に登場した死神・千葉の長編小説です。

おまえはまだ死なない。俺がついているから――。映画化(金城武主演)もされたベストセラー『死神の精度』の「千葉」が8年ぶりに帰ってきました!
しかも今回は長篇、冒頭の一部を除いてすべて書き下ろしです。7日のあいだ対象の人間を観察し、「可」か「見送り」を判定。「可」の場合8日目にその人間の最期を見届ける……。人間界でひっそりとこんな仕事をしている死神の千葉。クールでとぼけた彼のちょっとテンポのずれた会話と、誠実な仕事ぶりをたっぷりお楽しみください。

死神・千葉の特徴

  1. ミュージックに異常に興味を示す
  2. 苗字に町や市の名前が入っている
  3. 受け答えが微妙にずれている
  4. 素手で他人に触ろうとしない
  5. いつも雨にたたられている

死神の仕事は、1週間以内に何らかの理由で死ぬ人間の調査と観察。

死ぬことが認められた人間には「可」を、そうでなければ「見送り」を。(ただし、「見送り」となるケースは極めて異例。)

ほとんどの死神はろくに仕事をせずに、安易に「可」を下すなか、主人公の死神・千葉は調査対象となる人間に必ず接触し、仕事を真摯にこなす。

調査の対象は幼い娘を無慈悲に殺された父・山野辺

娘が殺された。犯人の事は絶対に許せない。

ところが事件後、あらゆる目撃証言から、すぐに逮捕された容疑者・本城崇に裁判の結果下された判決は、なんと無罪。

しかし、父・山野辺には本城崇が紛れもない真犯人である事を知っていた。

全ては、法で裁けない犯罪者を、夫婦で納得のいくまで裁くために仕組んだものだった…。

因縁の対決相手は25人に1人のサイコパス・本城崇

アメリカでは25人に1人の割合で、良心の欠如した人間、いわゆるサイコパスが存在しているらしい。学校では1クラスに1人はいる計算になる。

しかし、サイコパスの多くは犯罪を犯すことなく、逆に社会的には高い地位に着くケースが多い。

むしろ、生まれつき良心が存在しないがために、その言動から良心を持つ人からの恨みを買い、犯罪に巻き込まれるケースの方が多いとか。

娘を殺された山野辺夫妻の因縁の対決相手は、犯罪を起こした方のサイコパスだった。

千葉と香川、2人の死神

被害者・山野辺を調査する死神・千葉と、加害者・本城崇を調査する女死神・香川。

千葉以外の死神は、ろくに調査という仕事をせず、安易に「可」の判定を下すなか、本城崇を担当する女死神・香川は中々結論を出さない。

死神同士にはライバル関係も対決もない。ただ粛々と8日目に調査対象が死ぬことを「可」とするか「見送り」にするか、調査を行う。

調査部からの情報を快く思わない千葉は、香川と情報交換しながら調査を継続するが、近ごろ死神界で行われている、死なない期間を延ばすボーナスキャンペーンが引っかかる。

【総合的な感想】死神・千葉の魅力がいっぱい!

シリアスな場面での少しずれた会話や、(おそらく)無表情ながらもミュージックに夢中になる千葉の言動に、始終和まされます。

それは読者だけでなく、娘を殺された山野辺夫妻も同様で、千葉を取り囲む周囲の登場人物との会話がシュール過ぎて、意表を突かれたかのようにニヤけてしまいます。

また、山野辺の語る「死」に対する考え方も、彼と同じく父を亡くした私にとっては共感できるものでした。

娘の死は無念としか言い様がありませんが、先に生まれた両親が先に旅立っていく、という普通に暮らしていれば誰もがいつかは受け入れなければならない、受け入れがたい現実も、本作品を読む事で少し変わった観点が加わります。

笑いあり、怒りあり、悲しみあり。更には、千葉のチート過ぎる死神能力ありと、久しぶりに本を通じて再会した千葉には、めいいっぱい楽しませてもらいました。

『死神の精度』から数年を経て、満を持して本作品『死神の浮力』が発行されたように、何年後かにまた千葉と出会えるような気がします。(そうなりますように!)

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大学時代、伊坂幸太郎が大好きな友人が周りに2人いて、それぞれに最初にオススメされたのが本作品。
大きな感動や、大どんでん返しはありませんが、短編で構成されているため、あっという間に読了できました。人の死には興味がないのに人が作った音楽が大好きで、人間界に来るといつも雨が降るだとか、微妙に細かい設定も好感が持てました。

私が青春を共にした、おすすめの小説ランキグベスト50』でも言及している作品です。

前作の短編集『死神の精度』を先に読むと、より楽しめます。

本記事で紹介させていただいた作品。

文庫版は、まだ刊行されていないようです。

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