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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『少女には向かない職業』桜庭一樹/少女二人の歪んだ友情と家庭が生んだ悲劇

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過去に頂いたコメントの中でおすすめされた桜庭一樹ですが、短編を1つだけ読んだことはあるものの、まともに読むのは本書が初めてでした。

名前からてっきり男性と思っていたのですが、調べてみたら女流作家だったので少し驚きましたが、なんとなく柔らかいその文章から、読んでみるとなるほどな、と納得がいきます。

あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した…あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから―。これは、ふたりの少女の凄絶な“闘い”の記録。『赤朽葉家の伝説』の俊英が、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。

田舎で生きる天真爛漫な少女たち

主人公は中学生の少女。

学校帰りにマック(マクドナルド)に寄り道し、他愛のない話しをしては友達と笑いあい、二度と戻らない時間をゲームで浪費するなど、どこにでも見られる、別に珍しくない青春。

活発で明るい主人公、大西葵は、暇さえあればゲームをする筋金入りのゲーマーなのですが、あまり本書のストーリーとは関係はありません。

ともかく、そんな中学生の姿が、男性目線でも好感の持てる主人公の姿や性格を描き出しています。

明るい少女の複雑な家庭事情

しかし、そんな幸せそうな姿も、あくまで学校生活という1つの側面に過ぎません。

本当の父はすでに亡くなっており、苦労しながらも輝かしかった頃を忘れられない母は再婚。新しい父親となり優しかった義父も仕事ができなくなり、母や葵の稼いだお金で家で酒ばかり飲むという始末。

やがて、唯一血の繋がった母との関係にも亀裂の兆しが見え始めます。

夏休みに葵が出会う少女、宮乃下静香

そういうわけで、学校生活では上手く立ち振る舞える葵は、家庭ではそういう訳にもいかず、夏休みという輝かしい季節は苦痛でしかありません。

日中は外出し、隠れ家でゲームをしながら母がパートに出ている間の時間を、義父と二人きりにならないように過ごします。

いつものように、葵が隠れ家で携帯型のゲームをしていると、オカッパ頭にメタルフレームのメガネという、学校では地味な図書委員なのに私服はゴシックパンクという出で立ちの宮乃下静香に偶然出会います。

学校では決してそうはいかないであろう、明るく周囲に笑顔を振りまく少女と、地味で目立たない図書委員の少女は、夏休みに偶然出会うことで互いの友情を深めることになります。

夏が生んだ友情は歪んだものに

複雑な家庭事情を打ち明けた葵は静香と共に、稚拙で原始的なトリックで、義父に悪意のあるイタズラを仕掛けますが、徒労に終わります。

ある日、葵は静香に連れられ、港に引き上げられた女性旅行者の遺体を見ることに。また同時期に、義父の寝言からその罪を知ることなります。

秘密を共有する静香と共謀し、再び義父にイタズラを仕掛ける二人。

しかしそのイタズラは、幸か不幸か思わぬ方向に転ぶ事になり、秘密を共有していた静香には、また違った秘密を握られます。

明かされる静香の秘密

夏が終わり、静香からある依頼を受けていた、葵は学校生活を取り戻し、静香を避けるようになります。

しかし、静香は家族が亡くなり、その葬儀の場で静香は怯えきった表情を見せ、思わず駆け寄った葵に助けを求めます。なぜそれ程にまで脅えているのか、静香の壮絶な人生が語られることに。

そして、二人はとある計画のため再び結託するのですが、終盤に葵はとある本をキッカケに静香に疑問を抱くのですが、そこからはまるで崖から転げ落ちるようなスピードでクライマックスを迎えます。

総合的な感想

犯行に至る動機には深い闇のようなものを感じますが、その手法には中学生(あるいは少女)ながらの幼さを感じます。

計画性もそこそこ、単純な思いつきの様な抜け穴だらけの手法で何度も失敗するその姿には思わず「少女には向かない」とつぶやいてしまいます。

殺人に至る動機や事情は少し異なりますが、なんとなく貴志祐介の『青の炎』を彷彿させるような物語でした。

以前短編アンソロジー『短編工場』に収録されている桜庭一樹の作品、『じごくゆきっ』を読んだ時にも感じたことですが、とてもテンポよく読み進められて、どこか無垢で無邪気な登場人物たちの人物像は読んでいて、くすぐったく、痛快で気持ちいいものです。

とても気に入りました。今後は桜庭一樹の他作品も積極的に読んでみたいと思います。

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