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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『ねじまき鳥クロニクル』村上春樹/10年振りに読んだ嫌いだったはずの作品

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村上春樹の作品は大好きなのですが、クセになり始めた約10年前に、半ば拒絶反応のように全くページが進まず、わずか100ページ足らずで読むことをやめてしまった『ねじまき鳥クロニクル』。

以前に投稿した、『私が青春を共にした、おすすめの小説ランキングベスト50』にはランクインしていませんが、寄せられたブックマークコメントの中に、同じく苦手な人も多い中、6年ぶりに読んでみたら好きになった、というコメントが目に止まり、今の私目線で改めて読んでみました。

正直、あの時は若すぎたのかなぁ、というのが今の気持ちです。

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僕とクミコの家から猫が消え、世界は闇にのみ込まれてゆく。―長い年代記の始まり。

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致命的な記憶の死角とは?失踪したクミコの真の声を聴くため、僕は井戸を降りていく。

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猫は戻り、涸れた井戸に水が溢れ、綿谷昇との対決が迫る。壮烈な終焉を迎える完結編。

クロニクルとは

クロニクルというと何となくキザな雰囲気のある単語に思えます。

今では全くと言っていいほど、ゲームはやりませんが、RPGもののゲーム作品等に「〜クロニクル」というタイトルはよく似合います。

しかし、恥ずかしながら読んでいて初めて知ったのですが、クロニクルとは日本語で言うと年代記の事を指すようです。

挫折した当時は私もまだ10代でしたので、『海辺のカフカ』や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のようなちょっぴりファンタジーな世界観を望んで挫かれたのかもしれません。

「僕」のまわりには女が多すぎる

本書の重要な登場人物、笠原メイの言葉なのですが、主人公である「僕」こと岡田享のまわりには女がとにかく多いです。

しかし、そんな羨ましい環境とは裏腹に、「僕」からは女性が離れていきます。

それぞれの人物に、それぞれの事情があるのですが、一般的な家庭を持つ男性としては決定的な「ねじれ」が「僕」の世界に歪み(ひずみ・ゆがみ)をもたらします。

暴力的なねじまがった世界

読了して印象的だったのは、「暴力」と「執着」が象徴的な作品であった、という事です。

それは、「言葉の暴力」であったり、「物理的な暴力」であったり、大衆小説作家の作品では別に珍しくないテーマではありますが、村上春樹の作品としては珍しく思いました。中でもそれを象徴するアイテムとして、バットが挙げられます。

普通であれば、あっさりと絶つような「僕」を取り巻く関係にも異様な「執着心」を感じます。

そういう意味で、原始的な(もちろん良い意味で)人間の性と、現代的な社会のあり方のようなメッセージを感じました。

ねじまき鳥とは何なのか

作品名にもなっている「ねじまき鳥」とは何なのか。

  • 「僕」が鳴き声だけを聞く鳥としての「ねじまき鳥」
  • 笠原メイに送った「僕」のあだ名としての「ねじまき鳥」
  • 口をきかない男、赤坂シナモンの(おそらく)過去に出た「ねじまき鳥」
  • 赤坂シナモンの描く赤坂ナツメグ(シナモンの母)の過去の物語
  • 赤坂シナモンから「僕」へのメッセージ

ざっと読んだだけでも「ねじまき鳥」は鳥であったり「僕」であったり、様々な人物に紐付くキーワードとなっています。

しかし、その鍵をどの鍵穴に挿せばよいのか、あるいはどの鍵穴にも対応するマスターキーなのかは読む人や読む時期によって解釈が異なると思います。

後半になるにつれて、ハッキリとは読み取れなかったものの、多くの登場人物の過去や現在へ、クモの巣状にリンクが張り巡らされている様がうっすらと見えてきましたので、私は「ねじまき鳥」はマスターキーなのかな、と思っています。

かつて嫌いだった作品を夢中で読む、不思議な読書体験

本書『ねじまき鳥クロニクル』は、文庫本では全3部あり、読書メーターによると全ページ数は約1,300ページに登るかなりの長編作品ですが、先週の土日で一気読みしてしまいました。

いつの間にか不思議な世界に放り込まれる感覚は、村上春樹の作品ではたいてい経験できます。

しかし、苦手・・・むしろ嫌いだった作品を、10年越しで読んでみたらあっという間引きこまれ、夢中になって読んでしまうという感覚は、28年間生きてきて初めての経験だったからです。

ハルキスト、あるいはハードコアな村上春樹主義の諸先輩方にとっては、珍しくないことかもしれませんが、「良い作品だった」とかそういう単純ではなく、『ねじまき鳥クロニクル』は、私にとって不思議な読書体験となりました。

あと10年後に読んだら、また違った読書体験ができるかもしれません。

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