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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『どんな本でも大量に読める「速読」の本』宇都出雅巳/速読技術はメカニズムを理解をすれば身につく。

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昔、実家には兄が読んでいた、古い速読の本が何冊かありました。

進研ゼミの様な成功体験の挿絵漫画が非常にウサン臭いと感じ、当時は速読というものに興味を持てませんでしたが、つい先日まとめサイトで、速読に言及した記事が目に止まりました。

ちょうど、今年は沢山の本を読みたいと考えていたこともあり、思い出したように速読について、もう一度学んでみようと手にしたのが『どんな本でも大量に読める「速読」の本』です。

速読界を席巻した“高速大量回転法”は、フォトリーディングなどの速読に挫折した方はもちろん、速読未経験の方から積読している方まで、さらには読書が苦手な方まで実践できます。「速読って難しそう」「あまり深く読んでなさそう」そんな誤解も今日まで!特別な技術も練習も必要とせず、その割に本の内容を覚えられて深く理解できます!

ちなみに、数ある速読本の中から本書を選んだ理由は、単純にAmazonで速読で検索したら一番最初に表示され、レビューも高評価だったためです。

「読書慣れ」は「速読技術」に勝る

ちゃんと理解を伴う、本当に役立つ速読を考えた場合、読書力は

速読力=速読技術×(知識・情報・経験などの)ストック(37ページ)

の式で表され、義務教育で習う読書方法とは異なる読み方を唱えています。片方が100でも片方が0では話になりません。

また、本書が一貫して唱えている事は、

  1. 音にしないで見る(速読技術)
  2. 分かろうとしない(速読技術)
  3. ストックの重要性(読書慣れ)
  4. 繰り返して読む (読書慣れ)

であり、 速読のウサン臭さの象徴である(少なくとも私はそう思う)、

  • 「視点移動訓練」
  • 「記号読み訓練」
  • 「視野拡大訓練」

など、速読を修得するための技術訓練については、必ずしも必要なものではない、と語られているます。

あなたがラーメン屋などに入って、壁に書いてあるメニューや手元のメニューを眺めているとき、スーパーで「今日のご飯は何にしようかなあ」と売り場を眺めているときなどを思い出してみてください。
そのとき、そこに書かれている文字を一つひとつじっくり読むというより、ふんわりと見ているでしょう。音にしようとしないでも自然と頭のなかで音が響く、そんな状態です。
視野を広く保ち、リラックスして滑らかに眼が動くので、眼が速く動いているわけではないのですが、結果として、速くとらえることができるのです。(39ページ)

この、ラーメン屋の例えには、思わず唸りました。

なんとなくラーメン屋に入店し、壁のメニューを目にして瞬時に、「あ、この店ラーメン高いな。」と思ったことってありませんか?

こういった感覚で本を捉える事が、本書が指す『速読技術』です。

  • 『ラーメン』    850円
  • 『チャーシュー麺』 950円
  • 『大盛り』     無料

こういったメニュー表は、心のなかで音読せずに、あっという間に目だけで捉える事ができたと思います。

しかし、ラーメン屋のメニュー表と、本とでは、そもそもの文字数が大きく異なり、単純に比較する事は難しい、と指摘したくなると思います。

そこで、気をつけなければならない事が、本章の表題としている

「読書慣れ」は「速読技術」に勝る(26ページ)

ということで、「速読技術」よりも、前述の知識・情報・経験などのストックといった「読書慣れ」が重要になります。

いくら速読技術を身につけたところで、その本の内容に関して何も知らなければ、難しい本は難しい本であることに変わりはありません。(27ページ)

思わず納得しちゃいますよね。

「高速大量回転法」で速読を実現

フォトリーディングやレバレッジリーディングと比較したら、圧倒的にダサい筆者のネーミングセンスにも好感が持てます。

この、『高速大量回転法』を翻訳すると、以下の通りとなります。

  • 「高速」=分からない場所にこだわらず
  • 「大量」=何度も
  • 「回転」=繰り返す

この理屈は以下のとおりです。

内容はわからなくてもいいので、とにかく目次や見出しだけでも読めば、その本に関するストックが蓄えられます。
そのストックが、次の回転のときに、速く読む力となるのです。

さらに次の回転の時には、さらに新たなストックが蓄えられて・・・・といようにどんどんあなたの中にあるストックは増えていきます。それがまた次の回転のときに読むスピードを早めてくれるのです。(73・74ページ)

しかし前述のとおり、速読技術よりもストックの方が重要です。そのストックをどのように得る方法は以下のとおりです。

  1. 目次を繰り返して全体構成を見る
  2. まえがき・あとがきを繰り返して見る

これを繰り返し、その本に対するストック(=頻出するキーワード、書かれている事のまとめ)を蓄えた上で、本文にとりかかるわけです。

本文に入る前に、あとがきまで先にとりかかる理由は、

まえがき・あとがきにはその本の目的や最終的な結論がコンパクトにまとめられている事が多いからです。

とのこと。要は、全体像を掴んだ後に、細かい肉付けをしていく、ということですね。

この発想を「目からウロコ」と好意的に捉えるか、「それでは本を読んだ事にならない」と否定するかは、人次第だと思います。

精読と速読の違い

とは言いつつ、私も若干の違和感を感じました。

しかし、精読と速読を比較してみると、精読の弱点を、本書の速読法はカバーしているようにも思えます。

【精読】 【高速大量回転法(速読)】
本の中に入り込んでしまっている 本を上から眺めながら入ったり出たりしている
最初の方の場面を忘れやすい 大枠をとらえるので全体がわかる
「木を見て森を見ず」の状態になる 繰り返すことで細かい部分も読める

(85ページの絵を表にまとめました)

たとえば、資格試験などのテキストを、「ひとまず一周しよう」と愚直に読み込もうとすると、最初の方は何が書いてあったのか分からなくなる、ということですね。さらに、その最初の方に出てきたキーワードが終盤などの忘れた頃に登場すると、更に混乱してしまうことは容易に想像できると思います。

これは、1日で一周できるようなページ数のテキストであれば、精読でも特に上記のような弊害は無いのですが、何冊にも分かれているテキストであれば、飛び抜けた記憶力が無い限りは、最初の方の内容を覚えている事はほぼ不可能だと思います。

せっかく、じっくりと精読をしているのに、最初の内容を忘れてしまい、理解が伴わなければ本末転倒ですよね。

速読は読書のうちに入らない?あるいは、本への冒涜か

例えば前述の、本を読み終わっていないのに、あとがきを読むことには拒絶反応を起こす人もいるかもしれません。

それは私も概ね同意で、「速読」は、私が長年馴染んできた本との付き合い方には向いていないのかな、と感じました。

しかし、そういった読み手の心理を理解して、ハッとさせられる名言を随所で放り込んでくるところが、本書のずるいところです。中々感心させられましたので、いくつか引用したいと思います。

自他共に認める読書家であり、「千夜千冊」という本のブログを書き続けている松岡正剛氏(編集工学研究所所長)も、「本は二度以上読まないと読書じゃない」といっています。(101ページ)

長編小説などを1周し終えた後に、読んだという達成感を余韻とともに感じる人も多いと思いますが、1回読んだだけでは松岡正剛氏の読書の定義には、当てはまらない様です。

普通に考えれば、目次やまえがき・あとがきしか読んでいないのであれば、たとえ少しでも本文を読んでいるほうが「本を読んだ」といえるかもしれません。 しかし齋藤孝氏は、先ほど紹介した『読書力』の中で「本を読んだというのは、まず『要約が言える』ことだ」と述べています。この「読んだ」の定義を、もっともだと賛同する人は多いでしょう。(111ページ)

確かに、読み終わった頃に要約が言えなければ、本当に読んだのか?と聞き返されても仕方が無いのかもしれません。

一番やってはいけないのは、わからないのにわかったふりをすること、わかったつもりになることです。これをやれば自分の枠にとどまり、思い込みを強くするだけです。むしろ、わからないところを探すのが読書だ、ととらえるぐらいでちょうどいいのです。(125ページ)

最後に筆者の言葉です。

全てを速読手法の正当性と結びつけて、語るには無理があるかもしれませんが、心の晴れるような言葉が1つでもありませんでしたか?

本当にどんな本でも大量に読めるのか。

読了し、本書に謳われている手法は、確かに効果がありそうだと感じました。しかし、少々残念なのが以下の2点です。

  1. 小説は速読向きと書かれているが、言及が少ない
  2. 電子書籍には本書の手法は向かない

まず、ミステリーや推理小説など、どっぷり本の世界に入り込む読み方が醍醐味な書物においては、いくら速読技術で読むことができても、本そのものを楽しむ事ができないのではないか、という疑問点が浮かびました。これに対して、

小説はもともと速読しやすい種類の本でもあるのです。(中略)速読技術を使って読んでみるとまた違った味わいが感じられます。ぜひ試してみてください。(131ページ)

というのは、少々苦しいと思います。

ただ、速読技術を学んだら、以降全ての書物にそれを適用するか否かはその人次第なので、試験勉強や自己啓発本などには速読を適用、小説やエッセイには精読を適用、などと使いわける必要があるかもしれません。

とは言いつつ、ものは試しということで、過去に読み終えたものの、内容についてはほとんど忘れてしまった本で試してみるべく、先日実家に帰った際に速読技術で読むための小説を何冊かピックアップしてきました。速読技術の小説への適用については、また追って追記したいと思います。

次に、電子書籍には本書の手法が向かない、という点ですが、この速読手法からなんとなく察しがつくと思います。これはもはや仕方がないと思います。

私は「紙の本」と「電子書籍」とでは、同じタイトル、同じ内容であっても、書物としては全く別物だと思っています。

本書でも以下のとおり触れています。

紙の本 電子書籍
カバーやオビがある カバーやオビがない
手にした感覚がそれぞれ違う 手にした感覚はどれも同じ
すぐ手に取れる すぐ手に取れない
記憶に残りやすい 記憶に残りにくい

(189ページの絵を表にまとめました)

ただ、音で読まずに見るといった、速読技術の基本を電子書籍に適用することについては、この限りでは無いと思うので、全くダメとは言い切れません。

本書はこんな人におすすめ

世の中には速読に関する本が沢山ありますが、あまり良い印象を持たれない方が多いと思います。

本書を読み終えれば速読技術が必ず身につく、という物では決してありません(世の中にそんな技術書はありません)。

本書は、速読ができない普通の人目線でメカニズムを説明している、まっとうな本です。

  • これまで「ウサン臭い」と思って速読に手を出さなかった人
  • 速読本を読んでみたけれど、途中で投げ出してしまった人
  • 速読講義で学んだけれど、普段あまり活用できていない人 (10ページ)

本書の前書きからの抜粋。上記に共感できる点を見つけた人には特にオススメです。

また、本書自体が速読の練習台にもなります

書評を書くにあたり、練習も兼ねて3周ほどしました。挿絵も多いので、1周1時間弱くらいで読めてしまいます。

もちろん、本書を読了した瞬間から速読ができる様にはなりません。しかし、速読技術の仕組みを理解し、その一部でも読書に取り込んで活用する事はすぐにでもできるようになります。

速読習得を目的とせずとも、仕組みを知る本としても楽しめますので、興味がわきましたら是非一度、ご一読ください。

参考リンク

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