あまり流行りの本は読まない方なのですが、どこの本屋さんでも平積みにされ、帯に書かれた煽り文句が、気になって気になって、ついに買ってしまいました。
他にも読みたい本が沢山あり、積ん読もひどい量になってきたのですが、帯から表紙の写真から、つい手にとってしまう、強力な引力を感じました。
ページ数も長編と呼んでいい部類だと思いますが、見た目だけにとどまらず、物語に強い力で引きこまれあっという間に読み終えてしまいました。
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
誘拐されるアレックス
物語は、主人公にしてヒロインである30歳の美女、アレックスがある日突然誘拐されることから始まります。
「どうして私なの?」と犯人に問いかけるアレックス。
「それはお前だからだ」と答える誘拐犯。
自由気ままな都会生活は不幸を呼び、アレックスが失踪してしまった事に、目撃者を除き、誰も気づきません。
残酷な描写と、逃げ場のない絶望感、着々と死が近づくアレックス。
しかし、物語は単なる誘拐事件に留まりません。
誘拐犯を追うユニークな4人組の警察官
スプラッターホラー映画『SAW』のように、ただ被害者がむごい目に遭うだけの物語ではなく、アレックス側と捜査に当たる警察側、交互に物語が展開されています。
事件を追う警察は、過去で妻を誘拐され、殺害された身長が145センチしかない警部、カミーユ・ヴェルーヴェン。
横幅も身の丈も巨大なカミーユの上司、ジャン・ル・グエン。
わざわざ働かなくとも生活できるほどの資産家でカミーユの部下、ルイ・マリアーニ。
極端な倹約家で、新人から様々な備品をかすめ取ってしまう、まるで乞食のような生活を送るカミーユの部下、アルマン。
目撃者の証言をもとに、警察たちはアレックス誘拐事件を捜査するのですが、女性がバンで男にさらわれた事以外に手がかりは無く、捜査は難航を極めます。
ユニークな4人組が捜査にあたることになるのですが、彼らの個性も物語の登場人物として印象を付け加えられるだけに留まりません。
各々の特徴や人生が、事件とは別のところでやがて重要な意味を持つ事になります。
死の淵から命からがら脱出するアレックス
懸命なヴェルーヴェン班の捜査から、ついに誘拐犯を突き止めたの束の間、女の居場所を喋るぐらいなら死んだほうがマシだ、と言わんばかりに自殺してしまう犯人。
犯人という唯一の手がかりすら失い、捜査は八方塞がりに。
女の釈放よりも、自らの死を選ぶほど強い憎しみを持たれたアレックス。誘拐犯からそれほどにまで憎まれる「その女はいったい何者か」。
やがて有力な目撃情報からアレックスが監禁された場所が特定されるのですが、現場に着くとすでに女の姿はありません。
なんと、ここまでが序章なのです。
海外文学なのに一気に読めてしまう
ネタバレすると全く面白くなくなってしまう類の作品なので、概要はここまでです。
本書『その女アレックス』は、フランスで出版された作品を和訳された物です。
翻訳された本というと、回りくどい日本語訳のせいで読みにくいという印象がありましたが、本書はまるで日本で出版された本かのように、スムーズに読み進める事ができます。
この翻訳された本と思えない、翻訳のうまさは、『ハリー・ポッターシリーズ』に肩を並べるものがあると思います。
もちろん翻訳だけでなく、この先はいったいどうなるのだろうという、物語そのものが読者を強烈な力で牽引している事は、言うまでもありません。
どんでん返しに続くどんでん返し。どんでん返しに気づく前にどんでん返し。
約450ページあるのですが、平日仕事後に読んでいたにも関わらず、2日程度で読めてしまいました。
内容が薄いわけでは決してなく、それだけ先へ先へと強い力で導かれてしまったわけです。
ちなみに、本書は全3作のヴェルーヴェン・シリーズのうち、第2作に当たる作品らしく、映画化も決定しているそうです。