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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン/サイバーパンクSFの金字塔

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最近、SF小説を好んで読む傾向にあります。

本書『ニューロマンサー』は、SFの中でもサイバーパンクというカテゴリを確立した金字塔であり、ウィリアム・ギブスンの代表作となっております。

サイバーパンクとは平たく言うと、映画ではキアヌ・リーブス主演の『マトリックス』、アニメでは押井守監督の『攻殻機動隊』といった、電脳的な世界観の事を言うようです。

ケイスは、コンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼。だが、その能力を再生させる代償に、ヤバイ仕事をやらないかという話が舞いこんできた。きな臭さをかぎとりながらも、仕事を引き受けたケイスは、テクノロジーとバイオレンスの支配する世界へと否応なく引きずりこまれてゆく。話題のサイバーパンクSF登場!

最近カバーが変わったらしく、私が買った物が新装版の様です。

物語の始まりは千葉市(チバ・シティ)

世界的に有名な小説の始まりが、なんと千葉市(チバ・シティ)。

許されざる罪から「マトリックス」と呼ばれる電脳世界への入り口である神経系を芸術的なまでに焼かれ、破壊された、かつて凄腕のカウボーイ(電脳世界へ精神と共に侵入し、情報を奪取するもの≠ハッカー)と呼ばれたケイス。

壊された神経系の治療と回復を求め、世界的医療都市であるチバ・シティを訪れたケイスでしたが、この世界の医療技術では治療出来ないことから、その日暮らしの様な惨めな生活を送る事を余儀なくされています。

眼と爪、運動神経に身体改造を施した謎の女モリイから、カウボーイとしての能力回復と引き換えに、謎の男アーミテジからの依頼を引き受けざるを得なくなります。

「冬寂(ウィンター・ミュート)」と「ニューロマンサー」

どちらも物語の主要人物(?)であるAIです。

物語の大半は「冬寂(ウィンター・ミュート)」が支配しているのですが、終盤に出てくるのが表題にもなっている「ニューロマンサー」。

どちらも主人公であるケイスに、異常なまでに執着するのですが、なぜそこまで執着するのかは結局何度読んでもよく分かりませんでした。

ケイスは『マトリックス』の「ネロ」のような救世主ではないし、本書の解説ページでも触れられているのですが、その容姿たるや疲れた中年の男だからです。

バリバリSF、バリバリサイバーな世界観

本書が刊行されたのは1984年で、私が生まれる前の時代で、パーソナルコンピュータに革命を起こしたマイクロソフト社のWindows95すら無い時代です。

息を吸う様にサイバー世界へ入り込み、歯を治療するかのように身体にマシンを埋め込む、さも人間のように振る舞うAI(人工知能)、そんな刊行された当時の情報技術水準では考えられない、まるで近い未来を予想していたかのような世界観です。

アニメ等では大人気の超能力というテーマとは、一線を画すテクノロジーの応酬には驚きを隠せません。

そして本作品を更に昇華させているのが、物語専用の専門用語ラッシュと、黒丸尚氏の独特な和訳のルビ振りです。

例えば、サイバー世界への進入することを「転じる(フリップ)」、「投入(ジャック・イン)」と表現したり、島の名前が「円環体(トーラス)」、「紡錘体(スピンドル)」、「集合体(クラスタ)」と読んだり、挙げだすとキリがありません。

ハッキリ言って非常に読みづらく、度々よく分からなくなってしまう難しい本なのですが、何故か本の世界へ没頭してしまいます。

1度読んだだけで全てを理解することは困難で「なるほど、分からん。分からないけどヤバい」と呟いてしまうのですが、2周目からは本作品のスゴさというものが読みこむうちに理解できるようになります。

読む人を選ぶ作品だと思いますが、冒頭に挙げた『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、『マトリックス』の他にも『PSYCHO-PASS』、伊藤計劃の小説『虐殺器官』・『ハーモニー』など、後の様々なSF作品並びに作者に多大な影響を与えたことは疑いようが有りません。

SF好きなら押さえておきたい作品の1つだと思います。

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