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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『ウランバーナの森』奥田英朗/お盆の軽井沢を舞台にした死者たちの宴

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先日読了した、『最悪』と同時に購入した本書。

『ウランバーナの森』は、私が学生時代に大好きだった、精神科医伊良部シリーズ(『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』等)の作者である奥田英朗の処女作です。

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その夏、世紀のポップスター・ジョンは軽井沢で過ごした。家族との素敵な避暑が、ひどい便秘でぶち壊し。あまりの苦しさに病院通いをはじめたジョンの元へ、過去からの亡霊が次々と訪れ始めた……。大ベストセラー小説『最悪』の著者が贈る、ウイットとユーモア、そして温かい思いに溢れた喪失と再生の物語。(講談社文庫)

この紹介文を読んで、面白そうだと思ったのです。

便秘で台無しなお盆

世界中で彼の名を知らない者は居ないほどの、ポップスター、ジョン。

妻と息子と共に羽休めに訪れた、日本の避暑地である軽井沢の別荘が本書の舞台です。

少しお下劣な話しですが、ジョンは神にも縋る想いを募らせるほど、絶望的な便秘に悩まされます。

  • 谷崎潤一郎が、著書『陰翳礼讃』で厠(トイレ)について深く愛おしく論じた様に
  • ジョナサン・スウィフトが『ガリヴァー旅行記』で西洋人の品格について排泄行為を用いて皮肉を描いた様に

人間の自然現象である生理現象がつきまとう話しは、意外と多いように感じます。

私も何度か体験したのですが、そういった生理現象に基づくエマージェンシー(緊急事態)の際は「神様いつもごめんなさい」という具合に、人間の理性が丸裸にされる瞬間でもあります。

お盆だから良かれと死者たちが次々とジョンの元に現れる

亡霊、というと怖いホラーな響きですが、本書における亡霊は全くそんな雰囲気がありません。

積年の恨みを拳で晴らされたり、取れなかった”つっかえ”が解消されたり、とてもコミカルでユーモラスな亡霊たちです。

「ジョン」と「ケイコ」とその息子「ジュニア」とは

読み進めなくとも、文庫本裏面の紹介文を読むと何となく分かるのですが、あの世界的ロックバンドの、狂ったファンの兇弾に倒れたギタリストを主人公に重ねた作品となっています。

参考文献を除き、解説を含めて明確な言及はありませんが、

  • ジョン = ジョン・レノン
  • ケイコ = オノ・ヨーコ
  • ジュニア = ショーン・レノン

の事である事は疑いようがありません。

あまり著者が自ら言及すると、村上春樹の短篇集『女のいない男たち』の”まえがき”に有ったように、利権団体等から勧告みたいなものが来るのでしょうか。

「ウランバーナ」とは何か

本書のタイトルとなっている「ウランバーナ」。

読んでいる最中に非常に気になり、何度もWikipediaで調べそうになったのですが、やがて明かされるだろうとずっと我慢していました。

これは物語の後半で全て明かされます。

ネタバレになってしまうので詳細は割愛しますが、

  • ジョンの便秘の原因が、
  • 亡霊が訪れた意味が、
  • 母の愛が、
  • 家族を愛する意味が、

・・・それまでの物語がこの瞬間に全て理解できました。

  • このキーワードを先に物語を構築したのか、
  • 書いてみたらこのキーワードに当てはまる作品になったのか、

分かりませんが、よく出来ている、というのが正直な感想です。

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