ロマンチックでハッピーな気分になれる小説
という爆笑問題の田中裕二(玉なしで小さい方)のコメントが寄せられた帯と、猫の絵と(私は犬派ですが)、夏を感じるこの季節から、タイトルに惹かれて手に取った作品です。
調べてみると猫SFと呼ばれ、長らく愛されている作品ということで、思わず読んでしまいました。犬派ですけどね。
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんな時、「冷凍睡眠保険」のネオンサインにひきよせられて…永遠の名作。
全てを奪われ酒に溺れる男、ダン
卓越した工業技術力で家庭用の家事ロボットを開発し、成功した男、ダン・ディヴィス。
しかし、共に会社を起こした長年の友人・マイルズと最愛の恋人・ベルに、新しく革命的な発明を巡り、狡猾な罠に嵌められ、文字通り全てを奪われてしまった後から物語が始まる。
心を麻痺させるため、来る日も来る日も酒の溺れ続けるダンだったが、全てを奪ったものたちへの思いを一度拭い去り、冷凍睡眠(コールドスリープ)で30年後の世界へ旅立ち、過去の老いた共同創業者へ未来の若さを見せつける事で、それを復讐としようと考える。
人間の言葉を理解する牡猫、ピート
ピートは猫でありながら、人間(特にダンの)の言葉を理解する。
例え、季節が冬であっても、来る日も来る日も家のドアから『夏への扉』を探し、仲間の裏切りに酷く傷ついたダンの相棒として、スコッチを啜るダンの横で、彼はジンジャーエールを啜る。
失意から冷凍睡眠を選択したダンと共に、ピートもまた30年後の世界の世界へ旅立つことを、猫ながらに同意する。
不本意な未来への旅立ち
冷凍睡眠で旅立つ準備の一環として、医者から酒を絶たれたダンは、薄れゆくアルコールと徐々に濃くなる冷静な思考から、例え冷凍睡眠で30年後に旅立とうが、それには何の意味もない事を悟る。
せめてもの復讐として、マイルズとベルに嫌がらせだけでもしてやろうと、ダンはマイルズ邸を訪れる。
ダンを陥れた卑劣なやり口に悪態をつき、マイルズをからかい、ベルの秘密を暴露しようとしたところ、敵意剥き出しのベルの罠に嵌り、止めようと決意していた冷凍睡眠の旅に、不幸にも強制的に送り出されてしまう。
ピートを失った30年後の世界で、かつて自分が興した会社、文化女中器(ハイヤード・ガール)株式会社に、マイルズとベルが在籍していないことを知ったダンは、従業員として30年以上前に自分の興した会社で働き、発明に没頭する中で素晴らしい設計に出会う。しかし、その設計者はダンであった。
見に覚えのない設計書を追い求める中、ダンは重要軍事機密「タイムマシン」にたどり着く。
【総合的な感想】60年前の作品とはとても思えない
猫SFと呼ばれ、時代を超えて愛され続けている本作品ですが、おそらく日本の国民的な人気キャラクター『ドラえもん』、記憶に新しいゲーム、及びそのアニメ『Steins;Gate』、働かない事で有名な漫画家・冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』など、日本のメディアに多くの影響を与えている事は間違い無いかと。
また、二次元のアニメだけに留まらず、現実である工業製品である家庭用掃除ロボット『ルンバ』の開発も本作品の主人公・ダンの開発からヒントを得ているに違い有りません。
ダンの姪っ子・リッキーに注ぐ情熱は、純粋ながらも少々異常に感じますが、それは30年分の未来と過去という舞台設定上、仕方がない気もします。
1956年に刊行され、1958年に翻訳された作品が日本で刊行された本作品の驚くべきところは、現代人が読んでもスラスラと読めてしまうところにあります。
恥ずかしながら、読み終わって著者を調べるまでは新刊と思い込んでいました。
この最高のハッピーエンドと、夏を彷彿させるタイトル。本屋さんで探してみてください。きっと気に入って頂けるはずです。
言及したメディア作品、並びに工業製品
言わずもがな、国民的な人気キャラクター『ドラえもん』
タイムマシンという概念そのものが、『ドラえもん』刊行の数年前に定義されていた事、猫である事、など。
作者起因で連載の期待できない漫画『HUNTER×HUNTER』
キメラアント編に出てくる、猫型キメラアントの名前が、ピトー(=ピート?)。
厨二心をくすぐる、感動アニメ『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』
偶然発見した時空の輪廻の中、巡り巡る設定と感動のラスト。あざとい猫っぽいキャラクターも居ます。
高級自動お掃除機『ルンバ』
文化女中器(ハイヤード・ガール)の機能の一部。