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一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『また、同じ夢を見ていた』住野よる/幸せとは何か、もう一度考えよう。

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諸事情あって、ブログの更新も読書の継続もしばらく出来ていませんでした。

そんな私がもう一度読書を再開するきっかけとなったのが、本書『また、同じ夢を見ていた』です。

著者の住野よるの作品は、処女作である『君の膵臓をたべたい』を読んで以来大ファンで、前作が本屋大賞第2位を受賞するなど、次の作品に強い期待を持った読者の方も多いと思います。

本書は前作とは違った切り口で、再びあの暖かさを感じることができました。

誰にでも「やり直したい」ことがある
学校に友達がいない“私”が出会ったのは手首に傷がある“南さん”とても格好いい“アバズレさん”一人暮らしの“おばあちゃん”そして、尻尾の短い“彼女”だった---

あなたは、どんな時に幸せですか?

「ひとみ先生の言う、幸せっていうのはどういうこと?」
「そうねえ、たくさんあるけど、そうだ、小柳さんには先に教えてあげる。明日から国語の授業で、幸せって何かってことを考えるの」(6ページ)

「幸せとは何か?」単純な問いだけれども、その質問に即答できる人は、忙しない世の中、少ないのではないでしょうか。

本書が一貫して訴えているテーマがその、「幸せとは何か」。

かしこくなるためだけに学校に行き、どこか周りのクラスメイトを見下した様子を見せる、ちょっとおませで、人を食ったような性格と言動の主人公・小柳奈ノ花 (こやなぎなのか)。

少し大人びた性格からか、学校に友達がおらず、クラスメイトから頭がおかしいと呼ばれる彼女は、先生から出された国語の課題「幸せって何か」について、考えるところから物語は始まります。

4人の友人と見出す人生と幸せの意味

縁という字は知っています。縁という感じにとてもよく似ているのは、生き物がいつか死んで土にかえって、そこに緑色の草花が生え、それを食べて他の生き物が生きていく、そういう不思議な繋がりを指すからなのではないかと私は思っています。(173ページ)

学校には友達のいない彼女にも、学校が終わった後に出会った不思議な縁で繋がる4人の友人がいます。

手首に傷があり素敵な物語を作る高校生の「南さん」、昼夜逆転で季節を売る仕事をする「アバズレさん」、何でも知っていてお菓子作りが上手な「おばあちゃん」、そして短い尻尾で悪女な黒猫の「彼女」。

それぞれ世代と、住む世界の異なる4人の友達。学校の問題、家族の問題、そして「幸せとは何か」について話し、より深くそれぞれの目線で、それぞれの幸せを見出していく夏休み直前の不思議な数週間。

本作品の物語は、魔法も使えなければ、童話のような世界観というのもちょっと違いますが、何となく、スタジオジブリの『魔女の宅急便』のテーマソング、『やさしさに包まれたなら』(松任谷由実)の歌がずっと私の頭の中で鳴り響いていました。

また、同じ夢を見ていた

無垢で幼き日々、輝いていた良き思い出、やり直したかったあの頃。そんな頃が、きっと誰にでもあったはずです。

本作品名である「また、同じ夢を見ていた」というセリフは、物語の中で何度か繰り返しの様に登場するのですが、当然にこれが物語の重要な要素の一つになっています。

前作の『君の膵臓をたべたい』では、どのような結末になるのか最初から結果の断面を記し、そこに至るまでの日々が1冊の物語になっていましたが、本作品ではそれがタイトルから類推されます。

疑ってかかるとどういう物語なのか、目の肥えた読み手ならばすぐに分かるかもしれません。しかし、重要なのは物語の流れだけでなく(もちろん、そちらも重要ですが)、本作品が何を訴えたいのかにあると思います。

【総合的な感想】人生とは、幸せとは…

人は誰しも、自分の人生に意味を見出したくて、また、できるなら幸せのまま過ごして行きたいと願っていると思います。

しかし、そんなことを常日頃から考えて過ごしている人は少ないんじゃないでしょうか。かくいう私も、なるべくQOL(生活の質)を高めつつ、適正化された生活を送る事を信条としてきましたが、自分が今幸せなのか、人生とは何だろうなんて、深く考えた事の方が少ないと思います。

もちろん、人生だとか幸せなんてものに決まった形なんて無くて、人それぞれなのが当たり前です。

本書を読めば答えが見つかるかというと、答えは否です。しかし、何か大きなヒントや考え方がきっと見つかるでしょう。

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