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『旅のラゴス』筒井康隆/終わらない不思議な旅の人生とロマン

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最近、他のブロガーさんの間でもよく話題になっている『旅のラゴス』。

読んだ本の記録のため、読書メーターを利用しているのですが、そこでもチラチラとオススメの本として紹介されていたため、ずっと気になっていました。

私がよくお世話になっている古書店が改装中だったので古本での購入はできず、自宅に近い本屋さんで新品で購入しました。

筒井康隆の作品はこれが初めてです。

北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

北から南へ旅をするラゴス

特定の地に留まることなく、旅を続けるラゴス。

行く先々で、すぐに現地の人たちと打ち解け、無意識の中で人々に良い影響を与える様は、まるで宗教を布教して回る修行僧のようです。

しかし、自らの知識におごるわけではなく、あくまでありのまま周囲へ影響を与え受ける様は、人ではなく自然現象のようにも思えます。

前述のとおり、ゆく先々でその土地の人々に認められ、確実に信頼を得てゆくのがラゴスの旅と本作品の大まかな流れなのです。

いちおう中には例外もあり、現に作中で2度も奴隷の身となります。しかし、奴隷の身となっても何処か気長(のんびり、という意味ではありません。)に構え、わずか数ページで数年の月日が流れ、奴隷の身でも確実に地位を築く様は、読んでいて一種の憧れのようなものさえ感じます。

何故ラゴスは旅を続けるのだろう

旅先で訪れた土地に永住した方が、いっそ安定してそれなりに裕福な人生を送れるに違いない場合もあるにも関わらず、ラゴスは土地と人々が成熟しきったところで次の地へと旅立ってしまいます。

よく旅に出ると、「世界の広さを認識し、自分の小ささを発見する」とか、「未だ見ぬ新しい世界を見てみたい」だとか、そう言った悟った格言を残す人がいます。

しかし、ラゴスの旅はおおよそ明確な目的が有るようには感じられず、本能の赴くままのようです。自分勝手とも言えるかもしれません。

「旅」という言葉には、拙い表現ですがロマンがあり、ロマンとは明確な定義の無い漠然とした憧れや発見といった意味が込められている様に思います。

そういう意味では、ラゴスの旅は、純粋なロマンを求めている男の物語と考えると、納得がいきます。

南から北へ旅をするラゴス

物語も終盤に差し掛かると、長い旅もあり、ラゴスも段々と年老いてきます。

人生というものは旅である。
ただし、この旅は片道切符しかない。
往きだけで、かえりの切符のない旅行である。
とすれば、きちんとしたおじぎと挨拶とは、その旅を愉快に、かつ有効にできるパスポートといえないだろうか。

これは、扇谷正造という大正生まれのジャーナリスト兼評論家の名言です。

年をとるにつれて段々と死が近づいてくるにも関わらず、最後の最後までラゴスは旅を続けます。この生き様は、ラゴスにとって旅が人生であり、死へ向かう事すら旅である、と言えるのではないでしょうか。

【総合的な感想】

普段読んだ本の紹介をする時は、自分なりに作品のあらすじを書きながら最後に感想を書く、といった風に書き上げてきました。

この作品が初めてではありませんが、本作品はあらすじを書くことがとても難しかったため、始終とりとめのない読書感想文に留める事にしました。というのは、内容があくまで「旅」であり、それ以上でも以下でも無いと感じたからです。

壮大な旅ということで、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』を思い浮かべて頭の中で比較していたのですが、『旅のラゴス』は似ていて非なる作品と言えます。『ガリヴァー旅行記』では世の中に強烈な批判を込めて、最後に旅を終えてしまいますが、『旅のラゴス』は最後の最後まで徹底した旅の物語です。

また、あまり乱用はされませんでしたが「集団転移」を代表とする超能力であったり、古代の知識を物語の現在に適用しようとしている様はどちらかと言うと貴志祐介の『新世界より』のようにも感じます。ただ、『新世界より』は「旅」と言うより「冒険」の要素が強く超能力も連発しているので、似ているかと言うと人によっては全く違うという意見もありそうです。

ともかく、話題の作品ということで楽しめて読むことができました。あまり深く考えなくとも、単純に面白いと言い切れる作品です。

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