アイスハート

一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦/古風で摩訶不思議な可愛い喜劇の恋愛小説

f:id:maegamix:20150802200100j:plain

「命短し恋せよ乙女」での歌詞で有名な、大正時代の歌謡曲『ゴンドラの唄』のオマージュのような作品目。

他にも派生したと思われる類似したフレーズは世の中には沢山ありますし、実際に人の口からも即興で作ったようなオマージュを聴いたことがあります。

本作品『夜は短し歩けよ乙女』は、大学時代の後半頃に本屋さんで見かけた事がある作品です。有名な歌謡曲の歌詞によく似たタイトルだったため、強く記憶に残ったのだと思いますが、どういう訳かずっと読まずにいました。

私は古書店に脚を運ぶ事を休日の日課としているのですが、先日突然背表紙が目に入ったことで色々な事を思い出し、購入/即読了しました。

ジャンルは恋愛小説になるのかもしれませんが、小説なのにギャグ的な意味でとにかく面白く、何度も吹き出してしまいました。

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。

個性豊で一環して登場する人物たち

  • 先輩:主人公のひとり。黒髪の乙女(後輩)に恋する大学生。
  • 黒髪の乙女:主人公のひとり。黒髪ショートの好奇心旺盛ガール。
  • 李白翁:神出鬼没な超お金持ちの超高利貸し。
  • 樋口さん:自称天狗大学生。いつも浴衣を着ている。
  • 羽貫さん:タダ酒のために宴会場に突然現れる。酒癖が悪い。

メインは先輩と黒髪の乙女の2人の目線で短編の物語を進行していく構成となっています。

後輩を追い求める努力とそれに見合わない先輩の空回り具合と、己の好奇心に全力で突き進んでいく黒髪の乙女のアグレッシヴさが共通の見どころとなっています。

また、難解な漢字や現代ではあまり使用しないような言い回しを多用していますが、それも含めて歯切れよく味あう事ができます。

【第一章】夜は短し歩けよ乙女

大学のクラブのOBである赤川先輩の結婚式の二次会。黒髪の乙女がサッと帰ろうとしたため、二次会への参加を辞退した先輩。

目的は気になる黒髪の乙女に声をかけ二人っきりのデートへと洒落込む事だったが、黒髪の乙女が角を曲がったところで行方を暗ませてしまう。

一方の黒髪の乙女は、今宵なんとしてもお酒を飲みたい気分であった。

ふと目についたバーに入り、一人で飲んでいた竜巻の影響で事業が火の車のおじさんと意気投合し「偽電気ブラン」なる至高のお酒を求め、短い夜の飲み屋街を歩きまわる事になる。

自称天狗の樋口さん、他人の宴会場で大暴れする羽貫さん、そして高利貸の李白と出会い、奇妙な夜が更けてゆく。

【第二章】深海魚たち

真夏の京都・鴨川付近で行われる古本まつりに黒髪の乙女が足を運ぶ、との噂を聞きつけた先輩。

ガンガン陽射しの照りつける真夏の外出は憚られるところであったが、先輩はベタな「偶然の出会い」を装い黒髪の乙女に近づく作戦を立て、真夏の古本まつりに出向き黒髪の乙女の後ろ姿を見つけるのであった。

一方の黒髪の乙女は、見渡す限りの古本の洪水に興奮し、大学生の懐にも優しい古本市というシステムの中、ずっと欲しかった本を100円で見つけるビギナーズラックに恵まれていた。

ふと思い出す思い出深い1冊の絵本。もしかしたら、この古本まつりで見つかるかもしれない。

そして、影で開催される李白の貴重な蔵書をかけた”暑い”戦いの行く末とは…?

【第三章】御都合主義者かく語りき

学園祭の季節がやってきた。相変わらず先輩は黒髪の乙女と何度も接触を試みるが、概ね空振りに終わる日々が続いていた。

学園祭の事務局長と先輩との、厨二病チックな会話を経て知らされる、2つの珍事。学園の敷地内に突如現れては鍋を嗜む「韋駄天コタツ」と、学園の敷地内の各所でゲリラ的に開催される劇場「偏屈王事件」。

先輩は学園祭の当日においても、先輩は黒髪の乙女の姿を見つけては煙に巻かれ、厄介ごとに次々と巻き込まれるのであった。

一方の黒髪の乙女は、出店で巨大な緋鯉(ひごい)の縫いぐるみを手に入れ、それを背負いながら学園祭を縦横無尽に駆け抜けていた。

「韋駄天コタツ」の正体とは?そしてゲリラ演劇「偏屈王」は見事完結できるのか?

【第四章】魔風邪恋風邪

クリスマスを直前に控えた京都に、飛ぶ鳥も落とすほどの勢力で猛烈な風邪が流行っていた。しかも厄介なことに、凄まじいスピードで感染していくその風邪はなかなか治らない。

豪快で元気いっぱいであった羽貫さんも例外ではなく、この風邪を引いてしまった。樋口さんは馬鹿だからという理由で風邪を引かないと強気であったが、ついに羽貫さんから風邪をもらってしまった。

そして不幸な人間がここにも一人。先輩も万年床から抜け出せないほど風邪に悶え苦しんでいた。

一方の黒髪の乙女は、風邪の神様に嫌われているという単純な理由から全く風邪を引かなかった。そして健気にも羽貫さんや他の風邪を引いてしまった人たちの看病に余念がなかった。

この強力な風邪の感染源は?そして、先輩と黒髪の乙女の恋の行く末は?

【総合的な感想】数々の名言を生み出すとびきりの喜劇

結論から言うと無茶苦茶おもしろかったです。(小並感)

「現代ではそんな回りくどい言い回し方しないだろう」と思わず突っ込みたくなるような言葉使いと、古風な言葉使いで冷静に真面目にボケているところなど、不意打ちが多すぎて読んでいる最中に何度も笑ってしまいました。

ジャンルで言うと恋愛小説だと思いますが、一般的な恋愛小説のように愛だの恋だのそういった刹那の切なさは一切なく、ただひたすらに楽しめる喜劇になっています。

先輩と黒髪の乙女の、小説の中における構成としてのバトンタッチなども休憩を挟む間もないくらい良いリズムなのに、お互いの想い(先輩の一方的な部分が9割9分ですが)のズレが激しく、これもまたもどかしさを感じることが無いほど絶妙な合わせ技になっています。

森見登美彦の作品は初めてでしたが、この世界観にはすっかり魅了されてしまいました。難解な言葉使いが多いため、大人向けの小説のような気もしますが、内容はどの世代が読んでも、とびっきり楽しめると思います。

最近読んだ小説でどれが一番面白かった?と聞かれたら、間違いなくこの1冊を挙げます。

漫画化もされているようです。

この作品が気になった人へおすすめの記事

© 2014-2020 アイスハート by 夜