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『青が散る』宮本輝/輝かしく儚い青春の日々を思い出す小説

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自分で読みたい小説を探すことも好きですが、人からおすすめされた小説を読むことも好きです。

本作品『青が散る』ですが、恥ずかしながら宮本輝の小説を読むのは初めてです。

先日、会社の宴の場にて気の合う上席が『流転の海』(宮本輝)を話題にして語りかけてきたので、百姓さんのブログで紹介された時に気になって買い、取りあえず買って積ん読にしていた本作品を引っ張り出して読了しました。

新設大学のテニス部員椎名燎平と彼をめぐる男友達、女友達。原色のいのち燃える人生の短い季節を急ぎ駈けぬける者、ためらい立ち止まる者……。青春の光芒のあざやかさ、そして切なさとむさなしああを、テニスコートに白球を追う若い群像に描き、テニスというスポーツを初めて文学作品にした感動の長編小説。

私の持っている本は古書店で買った古いものですので上下に分かれていない一冊ものですが、現在は新装版が発売されており上下巻に分かれているようです。

舞台は新設された大学

舞台は新設された大学。主人公・椎名燎平は、その新設された大学の一期生として入学する。

通常の大学とは異なり、先輩もクラブも実績も何もない正真正銘の真っ新なキャンパスライフ。

受験に失敗した燎平は大学へ進学することを諦めようとしていたが、仕方なく入学手続きに足を運んだ新設大学で夏子に出会い、一目惚れをしてしまう。

テニスに捧げる4年間

大学生活で早速出来た友人・金子に半ば強引に燎平はテニスクラブへ誘われる。

高校生の頃に少しだけテニスの経験があったが、文字通り何もない新設大学には当然テニスコートも無かった。

テニスクラブの最初の活動は汗水を流し、テニスコートを作ることだった。

何度もテニス部を止めようと思う燎平だったが、そのたびに金子にうまく丸め込まれ、次第に仲間が増えるにつれてだんだんと王道のテニスをする事に目覚めていく。

燎平の恋は報われるのか

学生生活、とりわけ青春となると重要なテーマとして恋愛があります。

テニスに捧げる青春が本作品の骨組みとなっていますが、物語の始めに燎平が出会った夏子との恋愛の進展も見所になっています。

学生であれば出会いも豊富で、恋人を作る事なんてそれ程難しいことではありません。

しかし、燎平の恋はどこかプラトニックで中々発展しない関係にも関わらず、そのもどかしい時間さえも青春の一端として感じることが出来ます。

芽生え始めた恋心が自分とは全く関係のない時間や環境に影響され、やがて嫉妬心まで顔を出し、眠れない夜を惰性で過ごした経験はありますか?

きっと何者にも成れない若者に告げる

社会に出るまでの長くも儚い決して戻ることのない時間、青春。

お金も能力も何もなく、あるのは時間だけ。そんな退屈な日常を過ごす私たちでも、いつかきっと何者かになれるはず。

そんな風に思った日のことを思い出します。結局私の場合ただ社会の小さな(それも、とても小さい)歯車になり、結局何者にもなれませんでした。

そして今は何者かになることを諦め、これでいいんだと自分で自分を納得させ、本を読むことだけに喜びを感じながら生きています。

自分は何者になれるのだろうと思っていた過去の私、結局何者にもなれなかった現在の私、そんな2人の私に静かに語りかけてきます。

【総合的な感想】忘れかけていた青春を思い出す

あの頃何を感じていたのか、そして今はどう思うのか。社会人の時間はあまりに限られ、一方で残酷にも時間の流れだけは加速していき、いつしか随分歳をとってしまいました。

「過去は振り返らない。進むべきは未来だけだ」

これは某ネットゲームの某キャラの台詞ですが、過去があっての今があると言うことを私たちは忘れてはいけません。

何もないのに輝き放っていた青春時代。あの頃、「なぜもっとやりたい事ができなかったのか」、「誰を好きになりどんな夜を過ごしたのか」、「どこへ行き何を見たのか」、「誰と笑いあって飲み交わしたのか」、随分長い間忘れていたそんな青春の断片が蘇ります。

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