温泉に浸かったいい感じのおっさん風アザラシと、ガッツリ書籍に印刷された「もっとも危険な本」である旨の帯。
いかんせんキャッチーな書籍名ですので、「どうせ煽っておいて、中身は薄っぺらい自己啓発本でしょ」と思い、興味本位で手にしてさらっと読んでみると、良い意味で期待を裏切られた感のある、非常に内容の濃い書籍でした。
どこかでセミナーへのお誘いが出てくるのではないかと、ヒヤヒヤしながら読んでいたのですが、その心配は杞憂に終わり、結論から言うと非常に心を動かされる良書でした。
「自由な時間」を多く持っている人こそが、ほんとうの「豊かな人」。 より多くのお金をかせぐことより、辞意分のために時間を使うことを選択した人々、ダウン・シフターたちのスローな生き方のすすめ。
キャッチーなタイトルなのに内容がとにかく濃い
前述の通り、書籍名自体がキャッチーですし、扉絵もふざけている訳ですが、本書の内容は非常に濃いものでした。
自己啓発本にありがちな、何か大切なものを失うような、極端な指摘や教えは何一つありません。裏を返せば当たり前の事を言っているとも言えますが、そんな「当たり前の事」を全く考えなくなっていた自分を、いちいち気付かされます。
本書の目次は以下の通りです。
- 第一章:あなたも、のんきで気楽な生活ができる
- 第二章:ものの見方が生き方を変える
- 第三章:仕事人間は奴隷と同じ
- 第四章:あまり働かないことは健康にいい
- 第五章:失業-自分がどんな人間かを知るテスト
- 第六章:私を退屈にさせているのはこの私
- 第七章:だれかがおこした火で温まるのではなく、自分で火をおこそう
- 第八章:受身の活動だけでは何も得られない
- 第九章:禅の教え-今この瞬間に生きよ
- 第十章:くだらない仲間といるよりひとりになれ
- 第十一章:優雅な生活に大金はいらない
- 第十二章:終わりは、今、始まったばかり
仕事なんかに人生を賭ける価値は無い
かつてバートイランド・ラッセルは、北米人の仕事と自由時間に対する態度は時代遅れであり、社会の苦痛を増やしている、と書いた。「怠惰賞賛」というエッセイの中で、ラッセルはこう書いている。「勤労のモラルは奴隷のモラルである。そして、現代社会に奴隷は必要ない」
(第三章:仕事人間は奴隷と同じ)
「生活の糧を得るために仕事をしている」のが当たり前にも関わらず、いつしか「仕事のために生活をしている」と、手段と目的が逆転してしまい、おかしいはずなのに「仕方が無い」とあきらめてしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
かくいう私も、上記の手段と目的の違いについてハッキリ意識をして生活しているにも関わらず、せっかくの休日が仕事のための英気を養う休息期間になってしまっているところがありました。
東京大学卒のエリートが過労で自殺してしまう、という痛ましい事件はまだ記憶に新しいでしょう。
私も過労死ラインに近い残業を経験した事がありますが、生活の全てを仕事に捧げてしまうと、健常者にとっては信じられないかもしれませんが、正常な判断ができない危険な精神状態が本人にとっては普通となってしまいます。
極端な例かもしれませんが、仕事にステータスを全振りするようなRPG(人生)なんて、人として生きているとは言えません。
人生のすべてを仕事に賭けていると、人格が仕事で削り取られ、最後には何もなくなってしまう。仕事イコールあなた自身であってはならない。仕事は金を稼ぐためにしていること。「あなたは誰か?」の答はあなたのエッセンスであるべきだ。エッセンスとはあなたの人格と個性である。人格と個性こそ、あなたを他の人々とは違う存在にしているものだ。
(第四章:あまり働かないことは健康にいい)
自由な時間を過ごすプロになろう
生き方について見てみると、人には二種類ある。参加者と傍観者だ。前者は自分の時間を使ってものごとを起こす。そして、後者は自分の時間を使ってものごとが起こるのを見ている。あなたがいつもものごとが起こるのを見ているなら、人生が終わるのはそう遠いことではない。その時になってあなたは、いったいどうしてこうなったのだろうと不思議に思うだろう。
(第八章:受身の活動だけでは何も得られない)
本書が伝えているのは「仕事を今すぐ辞めろ」という極端なメッセージではなく、仕事と食事と睡眠の時間以外に存在する「自由な時間をどのように過ごすのか」という点を軸として、やってはいけない事は何なのかを一つ一つ丁寧に指南してくれます。
仕事をしている限りは、忙しない現代社会ではもはや死語になったアフターファイブや、土・日・祝日が「自由な時間」です。ただ、定年退職等で仕事を引退する日が来ると、寝ても覚めても全ての時間が「自由な時間」になる事を忘れてはいけません。
つまりは、「仕事を引退したら自由に過ごそう」では遅すぎるのです。今、この瞬間から「自由な時間」を過ごすべきなのです。
では、そのためには具体的に何をしたら良いのでしょう。当たり前ですが、答えはこの本の中には有りません。しかし、何が良くて何が悪いのか、そのヒントは本の中に沢山あります。答えは自分で見つけましょう。
まとめ:過労に喘ぐ日本人こそ読みたい最強の自己啓発本
天邪鬼なところのある私は、自己啓発本は目次と内容を流し読みしては信用できないものが多すぎる、と切り捨ててきました。
冒頭で少し触れましたが、この本もそうして手に取った一冊でしたが、ハッキリって良書中の良書です。難点を挙げるならば、(少し意味が違いますが)フランス書院みたいな、ちょっと人に見せづらいタイトルだけでしょう。
この記事で引用した言葉は著者のものに限りましたが、要所で頻出する偉人・賢人たちの格言も気持ちいい。
とにかく1冊の本、しかも自己啓発のカテゴリからここまで夢中になって読んだ本は初めてです。始終、同意の嵐、脳内国会は賛成多数の満場一致で可決の連続です。
仕事に疲れた人も、仕事に何の不満も無い人も、学生にもぜひ読んで欲しい1冊です。