アイスハート

一片氷心で四季を巡る書斎ブログ

『ラッシュライフ』伊坂幸太郎/活字の騙し絵と幾何学模様

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今年に入ってから2作品目の伊坂幸太郎です。

ちなみに、今年の1作品目は2月に読んだ『短編工場』に含まれていた『太陽のシール』でした。

本作品は、デビュー作『オーデュボンの祈り』の次に世に出た作品で、まだ今ほど伊坂幸太郎の呼び名が有名になる前の作品で、各メディアで絶賛された出世作でもあります。

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

資産家の戸田と、画家の志奈子

「金で買えないものはこの世にはない」が口癖の資産家 戸田と、その戸田に才能を見出され、金で雇われた画家の志奈子。

これまで刃向かうものは例え、赤子の手であっても金の力で有無を言わさず捻り潰してきた、冷酷な男 戸田。

交差する他の物語とは異なり、作品の区切りの冒頭で短く語られる、一見物語とは無関係な人物のようですが、物語始まりであり、実は終わりでもあります。

金の力で常勝不敗の男の末路とは。

神出鬼没の泥棒 黒澤

その気になれば、どんな職業にでも就けると同業者の中でも評判の良い、神出鬼没な泥棒の黒澤。

ターゲットの人物と行動を徹底的に調査し、空き巣に入られた住人への気遣いも欠かさない。

とあるマンションの一室に佇んでいたところに、意外な人物と鉢合わせをする。

その巧みな話術は、読んでいて気持ち良く、美学すら感じます。(仕事内容は褒められた物ではありませんが)

どうやら泥棒黒澤は、伊坂幸太郎作品の人気のキャラクターらしく、以降の他の作品にも登場するらしいです。

新興宗教にハマる、卓越した画力を持つ河原崎

人間と人生を17階のマンションからリタイアした父を想う、河原崎。

猟奇的な殺人事件を予知能力のような不思議な力で解決する、神と呼ばれる男。彼が有名になる以前に見かけた、とある美しい光景から強く高橋に惹かれるようになる。

そんな青年 河原崎に、神(=高橋)を解体する様子をスケッチしてほしいという依頼が舞い込む。河原崎の依頼主、神に不信を募らす男、塚本の真の狙いとは。

不倫相手との再婚を目論む精神科医、京子

多少の紆余曲折を覚悟していた夫との離婚は、あっけないほど簡単に済んでしまう。

再婚に残された障害は、不倫相手の妻の殺害だけ。

不倫相手の男 青木と彼の車に乗り込み、青木の妻の排除に出向くが、その道中で都市伝説に巻き込まれてしまう。

40連続不採用の中年無職、豊田

ハローワークの職員もオススメしない、超絶ブラック求人まで不採用となってしまった無職の豊田。

最後の不採用に途方に暮れる道すがら、気の触れた女性に殺されそうな、捨てられた老犬を拾う。

悟りを開いたような雰囲気の老犬と行動を共にすると、次々と不思議と不幸に見舞われる。

負け犬の人生は、やがて報われるのか。

マウリッツ・エッシャー『階段』のような物語

小説の冒頭の挿絵にある、マウリッツ・エッシャーの『階段』

私は展覧会があれば出向き、画集も持っているくらいエッシャーが好です。

エッシャー好きの観点では、本作品『ラッシュライフ』のテーマは2つあり、まず第一は本作品を読まずとも、誰もが一度は目にしたことがある「騙し絵」です。これは、本の冒頭部分に挿絵がありますので、目にしたことが無い人でもまず認識すると思います。

今年に入って読んだ群像劇は、奥田英朗の『最悪』が印象的でしたが、同じ群像劇でも本作品『ラッシュライフ』は全く異なる印象を持ちました。それがマウリッツ・エッシャーの他作品の特徴であり、第二のテーマである「幾何学模様」です。

単純な「騙し絵」ではなく、何が「幾何学模様」なのかは、本作品の根幹に関わる部分ですので、言及するとネタバレになってしまいますので、割愛します。どちらのテーマが濃いとかではなく、単純ながらも密接なものだと思います。

何はともあれ、良い作品でした。小説の可能性を追求した作品らしく、こういう作品の映像化は100%無理です。

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