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『夜行』森見登美彦/鞍馬の火祭の夜に消えた彼女と、銅版画にまつわる数奇な物語

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これまでに『四畳半神話大系』、『夜は短し歩けよ乙女』など数作品を読み、すでに森見登美彦の大ファンです。

2016年はなかなか読書に時間を割く事ができず、あまり小説を読むことができませんでしたが、ずっと書店で平積みにされている本作品が気になっていました。

読みたいと思ってからしばらく時間が経ってしまいましたが、年末年始の休暇を生かしてついに読了。結論から言うと、2017年の始まりに読むにふさわしい物語でした。

銅版画『夜行』にまつわる数奇な物語

本作品の物語は、日本各地の地名を冠する『夜行』と呼ばれる銅版画と、10年前の夜に姿を消した長谷川さんという女性が軸になっています。

登場人物たちがみな、10年前の学生時代に通っていた英会話スクールの仲間同士という設定ですが、それぞれ「鞍馬の火祭」の夜に姿を消した「長谷川さん」にどこか負い目のようなものを感じており、その後の人生の旅中で出会う、岸田道夫の銅版画『夜行』に関わり、奇妙な現象に巻き込まれていく物語。

私がこれまでに読んだ森見登美彦の作品は、京都が舞台で基本的にはそこから動かないものでした。しかし本作品では、京都が主軸ではありつつも、北は青森・津軽から南は広島・尾道と、舞台が各章ごとにことなります。

「ホラー」なのか「ミステリー」なのか

本作品にはこれまでに読んだ作品のような「笑い」の要素は一切無く、始終シリアスにそれぞれの物語が進みます。

特に各物語が銅版画『夜行』に触れるたび、どこか背筋が冷たくなる怪談じみた薄気味悪さを感じ、かといっていわゆる「怖さ」を感じる訳でも無い、非常に奇妙な世界に迷い込んだような気持ちになります。もちろん、悪い意味では無く。

そういう意味では「ホラー」小説とは言いがたく、かといって「サスペンス」や「ミステリー」かと問われても、これも違います。

『夜行』に翻弄される私と、やがて迎えた『曙光』

本作品を読んでいる間、ずっと読者としての私自身は『夜行』の世界に引き込まれてしまいました。

これは、読書として小説『夜行』に没頭できただけでなく、物語に登場する銅版画『夜行』の世界に迷い込んだという意味でもあります。

読書時間は主に日中の間でしたが、それでも森見登美彦が描く活字の「夜」の世界は広大で、始終まるで夜の世界に迷い込んだと錯覚してしまいます。そのため、一息つく暇も無く、いっきに読了してしまいました。

そして本書を読み終わる頃には、まるで夜明けを迎えたような気持ちになり、まさに『曙光』(しょこう:夜明けにさす太陽の光)を迎えたような気分です。

夜は短し歩けよ乙女』のような愛らしい黒髪乙女の世界観を求めて読むと、もしかしたら裏切られるかもしれませんが、それでも私は本作品を読んでより一層、森見登美彦の世界観が好きになりました。

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